漢詩徒然草(21)「新年」

平兮 明鏡
2023/1/1

今年未見苑中色 今年 未だ見ず 苑中の色
珠蕾滿枝將欲披 珠蕾 枝に満ちて 将に披かんと欲す
莫道春風復回處 道う莫れ 春風 復た回る処と
去年枯葉尚存枝 去年の枯葉 尚枝に存り

苑中 … 庭園のなか
珠蕾 … 珠(宝玉)のような蕾《つぼみ》


明けましておめでとうございます。

年が開けて新年となりましたが、お正月は何か新しくも懐かしい気持ちになり、一年の中でも特にしみじみといろんなことを思ってしまいます。

今回の詩題は、ズバリそのまま「新年」です。「新年」とは「新しい年」と書きますが、それは単に暦が改まるということだけでなく、まわりの風物とともに、私たちの心持ちも新しくなるということではないでしょうか?

今年未見苑中色 今年 未だ見ず 苑中の色

先ほど、新年は風物が新しくなる時期だと言いましたが、暦と実際の季節にはズレがあるということは、今まで何度かお話ししました(「新暦と旧暦」「七夕」)。年賀状などでも、よく「迎春(春を迎える)」と書きますが、新暦の1月初旬は春を迎えるというには少し早く、百花の魁《さきがけ》と言われる梅もまだ開いていません。

珠蕾滿枝將欲披 珠蕾 枝に満ちて 将に披かんと欲す

とはいえ、その枝々に満ちる玉のような蕾たちは、一ヶ月後には綻《ほころ》びはじめ、正真正銘、春の訪れを知らせてくれるでしょう。そんな期待も相まって、新年は何か特別な高揚感を感じるのかもしれません。
 


しかし、そのとき意外な発見がありました。

その枝には、去年の葉が一枚だけ落ちずに付いていたのです。晩秋には、すべて落ちきってしまっているはずの去年の枯れ葉。数多《あまた》の蕾の中、たった一枚あるその姿は、私の浮かれた心をたしなめるかのようでした。

莫道春風復回處 道う莫れ 春風 復た回る処と
去年枯葉尚存枝 去年の枯葉 尚枝に存り

新暦のお正月はまだまだ寒いとはいえ、新年になると過ぎてしまった冬のことなど忘れてしまいがちです。ましてや、それが秋のことであるならなおのことです。しかし、今年の花々が咲くことができるのも、去年の葉々がエネルギーを作ってくれていたおかげなのです。

人は、未来を展望しているときに、過去を振り返ったりはしません。しかし、現在や未来は、過去とも途切れることなく繋がっています。春が再びやって来るのはもちろん喜ぶべきことですが、過去への思いを新しくするのも、また「新年」――年を新しくする、ということなのかもしれません。


お正月以外にも、お祝いの日はいろいろとありますが、誕生日はもっとも一般的なお祝いの日の一つです。さて、この「誕生日」、あなたは一体「いつの誕生日」を連想しますか?

誕生日は、もちろん「誕生した日」であるわけですから、その誕生した日自体は、「過去の○○年○月○日」の一日だけであるはずです。しかし、一般的に誕生日というと、パーティーをしたりケーキを食べたりしてお祝いする「今年の誕生日、○月○日」という認識の方が強いのではないでしょうか。

あるお母さんのお話なのですが、誕生日に息子さんから綺麗な花束が送られてきました。そして、そのメッセージカードには「誕生日ありがとう」と書かれていました。「誕生日おめでとう」ではなく「誕生日ありがとう」です。実はこの日は、誕生日は誕生日でも、お母さんの誕生日ではなく息子さんの誕生日だったのです。

このお話は、誕生日の本当の意味について考えさせてくれます。

誕生日というのは本来、誕生した日、自分が生まれた日のことです。それはつまり、生まれた日へと立ち返り、その日から今に続く自分の人生の道のりを振り返る日でもあります。新年に限らず、誕生日もまた過去への思いを新しくする日と言えるでしょう。


「新年」――年が新しくなるということは、何も暦や風物だけが新しくなるということではありません。それは、現在・未来だけでなく、過去をも新しくするということです。

玉のような蕾には未来への期待が、咲き誇る花には現在の喜びが溢れています。しかし、そこにはまた、追懐や感謝といった過去への思いも必ず含まれているはずです。

新しく開いた花に、去年の枯れ葉を見ることができたとき、私たちは本当の意味で「新しさ」を感じて心機一転できるのではないでしょうか。そんな新年は、より豊かな一年をもたらしてくれるかもしれません。


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今年未見苑中色 今年 未だ見ず 苑中の色
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珠蕾滿枝將欲披 珠蕾 枝に満ちて 将に披かんと欲す
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莫道春風復回處 道う莫れ 春風 復た回る処と
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去年枯葉尚存枝 去年の枯葉 尚枝に存り

平起式、起句踏み落とし「披」「枝」、上平声四支の押韻です。

「年」や「枝」は同字重出の禁則で、本来は許されません。他の字を用いることによって、禁を回避することは容易ですが、ここはまさにこの詩のテーマである「今年の枝」と「去年の枝」の対比であるため、禁則を破っています。

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