初めての人のための漢詩講座 27

平兮 明鏡
2022/1/1

第三章 漢詩を作ろう

*上級編! 対句とは?

漢詩の代表的なレトリックの一つに対句があります。漢詩といえば対句、対句といえば漢詩です。

対句とは、絶句であれば起句と承句、あるいは転句、結句を対の構成にすることです。これは文法上の主語や述語などの位置関係や、また対義や類義など、意味の上でも対となっていないといけません。

実際に見た方が早いでしょう。(16)「*上級編! 五言絶句と踏み落とし」で取り上げた五言絶句がちょうど対句になっているのでそちらを見てみましょう。


まず、杜甫「絶句」です。

江碧鳥逾白 江 碧にして 鳥 逾白く
山靑花欲然 山 青くして 花 然えんと欲す
今春看又過 今春 看 又過ぐ
何日是歸年 何れの日か 是帰年ならん

起・承句が対句になっています。

 自然の風景 「江」「山」……主語
 動植物の種類「鳥」「花」……主語
 副詞と助動詞「逾」「欲」……述語にかかる
 色の形容  「白」「燃」……述語

平仄もほぼ真逆になります。

○●●○●
江碧鳥逾白
○○○●◎
山靑花欲然


次に、王之渙《おうしかん》 の「登鸛鵲樓(鸛鵲楼《かんじゃくろう》に登る)」です。

白日依山盡 白日 山に依りて尽き
黃河入海流 黄河 海に入りて流る
欲窮千里目 千里の目を窮めんと欲し
更上一層樓 更に上る 一層の楼

まず、起・承句。

 色の種類 「白」「黃」……主語を形容
 自然の風景「日」「河」……主語
 動詞   「依」「入」……述語
 自然の風景「山」「海」……場所
 動詞   「盡」「流」……述語

この詩は転・結句も対句になっています。

 助動詞と副詞「欲」「更」……述語にかかる
 動詞    「窮」「上」……述語
 数詞    「千」「一」
 単位    「里」「層」……目的語を形容
 名詞    「目」「樓」……目的語

このように、起承転結がすべて対句の詩を全対格といいます。

対句はこのようにテクニカルな技法ですので、初心者のうちはなかなか作るのは難しいのですが、洗練された美しい文章の流れを生み出すことができます。

ちなみに対句では、通常はじめの句を踏み落とします。
(この例では五言絶句なので、対句でなくても踏み落とされることになります)


(4)「*上級編! 禅宗における漢詩(1)」で取り上げた蘇東坡「渓声、便ち是れ広長舌」の句です。この詩は起・承句が対句なのですが、どう対になっているか確認してみてください。

○○●●●○●
溪聲便是廣長舌 渓声 便ち是れ 広長舌
○●●○○●◎
山色豈非淸淨身 山色 豈に清浄身に非ずや
●○●●●○●
夜來八萬四千偈 夜来 八万四千偈
○●○○●●◎
他日如何擧似人 他日 如何ぞ 人に挙似せん

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