初めての人のための漢詩講座 28

第三章 漢詩を作ろう
*上級編! 律詩
対句の説明をしましたので、律詩のお話をしましょう。律詩については、以前に少しだけお話しました。要点をまとめると、
・五言律詩と七言律詩がある。
・1・2句目を起聯《きれん》、 3・4句目を頷聯《がんれん》、
5・6句目を頸聯《けいれん》、7・8句目を結聯《けつれん》という。
(このように二句一組を聯という)
・3・4句目(頷聯)と5・6句目(頸聯)は対句にしなければならない。
(対句なので七言律詩・五句目は踏み落としになる)
・平仄式や平仄のルールはすべて絶句と同じものが適用される。
かなり厳しい制約があるのがわかると思います。
・五言律詩-平起式
起 *○ ○●●
聯 *● ●○◎
頷 *● *○●
聯 *○ *●◎
頸 *○ ○●●
聯 *● ●○◎
結 *● *○●
聯 *○ *●◎
・五言律詩-仄起式
起 *● *○●
聯 *○ *●◎
頷 *○ ○●●
聯 *● ●○◎
頸 *● *○●
聯 *○ *●◎
結 *○ ○●●
聯 *● ●○◎
・七言律詩-平仄式
起 *○ *● ●○◎
聯 *● *○ *●◎
頷 *● *○ ○●●
聯 *○ *● ●○◎
頸 *○ *● ●○●
聯 *● *○ *●◎
結 *● *○ ○●●
聯 *○ *● ●○◎
・七言律詩-仄起式
起 *● *○ *●◎
聯 *○ *● ●○◎
頷 *○ *● *○●
聯 *● *○ *●◎
頸 *● *○ ○●●
聯 *○ *● ●○◎
結 *○ *● *○●
聯 *● *○ *●◎
唐代の詩人、于良史《うりょうし》の五言律詩「春山夜月」です。

○○○●●
春山多勝事 春山 勝事多し
●●●○◎
賞翫夜忘歸 賞翫して 夜帰るを忘る
●●●●●
掬水月在手 水を掬すれば 月手に在り
●○○●◎
弄花香滿衣 花を弄すれば 香り衣に満つ
●○○●●
興來無遠近 興来れば 遠近無く
●●●○◎
欲去惜芳菲 去らんと欲して 芳菲を惜しむ
○●○○●
南望鳴鐘處 南に鳴鐘の処を望めば
○○○●◎
樓臺深翠微 楼台は翠微に深し
春の山はすぐれた景色ばかりで、
夢中になって遊んでいると、夜に帰ることも忘れてしまう。
水を掬《すく》うと、月がその手のひらに浮かび、
花を弄《もてあそ》ぶと、香りが衣の中に移り満ち満ちる。
興に乗じると、遠い近いなどという感覚はなくなり、
立ち去ろうとしては、また花の香りを惜しむ。
南から聞こえてくる鐘の方角を望めば、
もやが立ちこめる青山に、かすかに楼台が見え隠れしている。
頷聯の対句は、物我一体となった境地を表しているとされ、特に禅門でよく用いられます。幻想的でありながら、深さを感じる含蓄のある聯です。
全体としては、ただただ時間を忘れてしまうような春夜の遊山が描かれていますが、結聯の表現には疑問が残ります。鐘はいつ鳴っているのでしょうか。
対句を見てみましょう。頷聯は、
「掬」と「弄」、「花」と「水」、
「月」と「香」、「在」と「満」、「手」と「衣」
と完全に対になっていますが、「月在手」の平仄は下三連の禁を破っています。実は下三連を禁じるルールは、仄三連(●●●)の場合は比較的、縛りがゆるいのです。
一方、頸聯は、
「興來」と「欲去」、「無」と「惜」、「遠近」と「芳菲」
と、特に上二字が完全な対の形にはなっていません。
五言律詩・平起式、「歸」「衣」「菲」「微」上平声・五微の押韻です。
律詩を作るのはなかなか骨が折れますが、律詩は絶句に比べ、より精緻で整然とした格調の高さをそなえています。絶句を作るのに慣れてきたら、チャレンジしてみてはどうでしょうか。
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