初めての人のための漢詩講座 16

平兮 明鏡
2021/8/15

第二章 漢詩のルール

*上級編! 五言絶句と踏み落とし

五言絶句も見ていきましょう。しかし、七言絶句のルールを今まで読んできたみなさんなら話は簡単です。単に七言絶句の上二字がないものが五言絶句です。平仄式を見てみましょう。


・平起式

起句 *○ ○●● (or *●◎ or ●○●)
承句 *● ●○◎
転句 *● *○●
結句 *○ *●◎

・仄起式

起句 *● *○● (or ●○◎)
承句 *○ *●◎
転句 *○ ○●● (or ●○●)
結句 *● ●○◎


七言絶句の平仄式の上二字を取り除いただけのものですが、一つだけ注意しなければならないのは、起句を踏み落とす(五字目が●になる)ということです。
(実は、七言絶句も起句を踏み落とすことがまれにあります。例:大燈国師の「投機の偈」

ただし、これは押韻しても構わないので、その場合の平仄も( )で記載しています。


当然ですが、平仄式のルール、

二字目が○の場合、その上下両方が●であってはならない。
(五言絶句では、上二字が削られているので二字目の孤平を禁ずになります)

・同じ字を二回以上使ってはならない。(同字重出の禁)

に抵触してはいけません。


七言絶句同様、挟み平も許されますが、五言絶句の場合、上二字が削られているので、平起式でなく仄起式の転句になっています。また、起句を踏み落としていますので、平起式の起句を挟み平にすることも可能です。


詩聖と称えられる唐代の詩人、杜甫「絶句」です。

○●●○●
江碧鳥逾白 江 碧にして 鳥 逾白く
○○○●◎
山靑花欲然 山 青くして 花 然えんと欲す
○○○●●
今春看又過 今春 看又過ぐ
○●●○◎
何日是歸年 何れの日か 是れ帰年ならん
 

「絶句」杜甫

訳が必要ないほどわかりやすい詩です。「然《も》える」は咲くという意味、「看《みすみす》」は、みるみるうちにという意味です。

杜甫は生涯不遇でしたが、このときは戦乱を避けて四川省の成都に移り住んでいました。結句の「何れの日か 是帰年ならん」は、都・長安に帰れる日は一体いつだろうか、という意味です。

起承では、さまざまな色彩を用いて春の美しさを描き出します。しかし、転結では、一転して不遇の境遇を歌い上げます。春の自然の情景が素晴らしいからこそ、杜甫の悲しみが一層際立つのです。

仄起式、「然」「年」下平声・一先韻の押韻です。


もう一つ、同じく唐代の詩人、王之渙《おうしかん》 の「登鸛鵲樓(鸛鵲楼《かんじゃくろう》に登る)」を見てみましょう。

●●○○●
白日依山盡 白日 山に依りて尽き
○○●●◎
黃河入海流 黄河 海に入りて流る
●○○●●
欲窮千里目 千里の目を窮めんと欲し
●●●○◎
更上一層樓 更に上る 一層の楼
 

「登鸛鵲樓」王之渙

鸛鵲楼 … 山西省永済県の西南にあった楼閣。ちなみに鸛鵲はコウノトリ

この詩も翻訳は必要ないでしょう。起承は杜甫の「絶句」と同じく自然の光景を詠み込んでいます。しかし、転結は楼台に登って眺めているという舞台装置が活きてきます。さらに上階に登らずにいられない遥かなる眺望が読み手の心にも伝わってきます。

仄起式、「流」「樓」下平声・十一尤の押韻です。

五言絶句は字数が少ない上、起句も踏み落とすので、七言絶句に比べてルールがゆるくなっています。では、作るのが簡単かというと決してそうではありません。少ない字数の中で必要なものを表現しなければならないので、七言絶句よりも難易度が高いとされています。はじめのうちは七言絶句からチャレンジすることをおすすめします。

→(17)「※上級編! 同字重出の禁は守られているか?」へ

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