初めての人のための漢詩講座 19

平兮 明鏡
2021/10/1

第三章 漢詩を作ろう

漢文の文法

それでは、実際に漢詩を作ってみましょう。と、いきたいところですが、その前に知っておかなければいけないことがあります。

それは漢文の文法です。漢詩は昔の中国語、つまり漢文で綴られた詩です。当然、その文章は漢文の文法に則っていなければなりません。

とはいえ、あまり詳しく説明すると長くなってしまいますので、ここではごくごく基本のところのみをお話していきます。

漢文の文法は、日本語と比べると英語に近い語の並び方をします。誤解を恐れずにざっくりというと、

日本語は、 「主語・目的語・述語」の語順ですが、
漢文や英語は「主語・述語・目的語」の語順になります。

つまり、日本語と漢文では、述語と目的語の位置が逆になっているのです。よって読み下し文では、目的語の部分を先に読む必要があり、白文と語順が逆転します。「楓橋夜泊」の起句・下三字を例に取ると、

 月落烏啼霜滿天 月落ち 烏啼いて 霜 天に満つ

白文は「霜滿天」ですが、読み下し文は「霜、天に満つ」となり、「天」を先に読んで、次に戻って「満つ」と読んでいます。

これを返るといいます。実際に漢詩を作るときは、この述語と目的語の位置が入れ替わることに注意して作らなければなりません。日本語で「霜、天に満つ」だから「霜天満」とはならないということです。これでは主語・述語の並びで「霜天が満ちる」になってしまいます。

とりあえず漢詩を作るときは「主語・述語・目的語」の並びを意識してください。どれが目的語がよくわからないという方は、「ヲニト会ったら返れ」と憶えてください。これは「天に満つ」のように、日本語で目的語を取るときは「ヲ・ニ・ト」という助字が付くことが多いからです(絶対ではありません)。

なお、白文から読み下し文に変換するときに、返って読むところを補足するために作られた記号のことを返り点といいます。返り点は、のちに(21)「*上級編! 返り点」で取り扱います。

目的語になっていなくても返って読む例外

どんなルールにも例外があるように、漢文の文法にも例外があります。目的語になっていなくても返って読む返読文字再読文字などです。これは例外なので憶えるしかありません。

少年易老學難成 少年 老い易く 学成り難し
一寸光陰不可輕 一寸の光陰 軽んずべからず
未覺池塘春草夢 未だ覚めず 池塘 春草の夢
階前梧葉已秋聲 階前の梧葉 已に秋声

返読文字については、次回の「*資料集! 返読文字一覧」で確認してみてください。
 

→(22)「 詩語集を活用する 」へ
→(20)「 *資料集! 返読文字一覧 」へ

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