初めての人のための漢詩講座 20
*資料集! 返読文字一覧
返読文字
目的語でなくても(「~を、~に」がなくても)返る文字
有(あリ)
無・莫(なシ)
莫・勿・毋・無(なかレ)
不・弗(ず) ※書き下し文では平仮名にする
非(~ニあらズ) ※必ず前に読む言葉に「に」をとり、送り仮名「ず」をつける
多(おおシ)・少(すくなシ)
難(かたシ)・易(やすシ)
可(べシ) ※書き下し文では平仮名にする場合が多い
能(あたウ)
如・若(ごとシ)
所(ところ)
所以(ゆえん) ※ハイフンを伴うことが多い(所‐以)
自・従(ヨリ) ※書き下し文では平仮名にする
与(ト) ※書き下し文では平仮名にする
為(ためニ・たリ) ※「たり」と読むときには平仮名にする
毎(ごとニ)
雖(いへどモ)
再読文字
まず副詞として読み、その後、返って助動詞として読む
未(いまダ~ず)「まだ~ない」
将・且(まさニ~[セ]ントす)「いまにも~しようとする」
当(まさニ~スべシ)「当然~すべきだ」
応(まさニ~スべシ)「~すべきだろう、きっと~だろう」
須(すべかラク~スべシ)「ぜひ~する必要がある」
宜(よろシク~スべシ) 「~するのがよい」
猶・由(なホ~ノごとシ)「あたかも~のようだ」
盍(なんゾ~[セ]ざル)「どうして~しないのか」
助字
将・以(~ヲもっテ)
因・縁(~ニよっテ)
向(~ニむかッテ)
使役形
使・令・教・遣 A使BCD(AハBヲシテDヲC[セ]しム)「AはBにDをCさせる」
受身形
被・見・為・所(~る・[セ]らル)「~される」
それでは、一つ詩を挙げますので、この詩の中の返読文字をすべて見つけてみてください。
李白の「橫江詞 六首 其五」です。
○○●○○●◎
「橫江詞 六首 其五」李白
橫江館前津吏迎 横江館前 津吏迎え
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向余東指海雲生 余に向かって 東のかた海雲の生ずるを指さす
○○●●○○●
郞今欲渡緣何事 郎 今 渡らんと欲するは 何事にか縁る
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如此風波不可行 此くの如き風波 行くべからず
横江館の前、渡し場の役人が私を出迎え、
私に向かって東の海に雲が沸き立つのを指さして言う。
「旦那が今すぐこの海を渡ろうとするのは、一体どういうことですかい?
このようなひどい波風のときに船なんかとても出せませんぜ!」
唐の大詩人、李白が江南の地を旅しているとき、嵐により横江(現在の安徽省和県、長江の渡し場)で数日間、足止めをくらっていたときの詩です。「六首 其の五」とあるのは、その時、横江を詠んだ連作の五作目ということです。
起承句はその場面の描写ですが、転結句は二句も使ってまるまる役人のセリフになっています。あまり見ないパターンですが、活き活きとしたセリフは躍動感と臨場感があり、嵐を目の前にしているようすがこちらにも伝わってきます。李白はどのような気持ちで、この言葉を聞いていたのでしょうか?
それでは答えです。
返読文字は「向」「欲」「緣」「如」「不」「可」です。助字の二字(向、緣)は「~に」をとりますが、それ以外はとらず、日本語の感覚ではまったく目的語になっていないことに注意してください。
「渡らんと欲する」「行くべからず」などは助動詞のように働きますし、ここにはありませんが「~有り(無し)」「~多し(少し)」などは主語と述語の関係になってしまいます。例外は憶えるしかありません。
破格ですが、仄起式「迎」「生」「行」下平声・八庚の押韻です。
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