楷書の基本の詰合わせ「永字八法」

野田 芳樹
2021/5/22

最近とある友人から「書道には興味があるし、キレイな字を書きたいとは思うけど、何から手をつけていいかわからないんだよね…」という言葉をもらいました。

確かに練習する素材はたくさんあふれています。その中から何をどう選んで練習すればいいのか、迷いどころですね。個人的なおススメとしては、日ごろよく使う楷書《かいしょ》から始め、その基本点画を学ぶのが入りやすいのではないかと考えています。

楷書の基本点画には大事な八種類の要素があると言われ、それが一文字の中にまとまっている宝箱のような字があるのをご存知でしょうか?それは【永】という字なんです。永の字には楷書の八つの基本点画がすべて含まれていることから「永字八法《えいじはっぽう》」と呼ばれ、昔から基礎力を高めるお稽古にはもってこいの字として重宝されてきました。

今回は「永字八法」とはどのようなものかをお伝えし、書の基本中の基本を皆さまと学んでいきたいと思います。

まずは動画をご覧ください


「永字八法」8つの要素

それでは、永の字に含まれる楷書の八つの基本点画についてご説明します。
 

1、側《そく》

短い点のことです。短いからといってあなどるなかれ。適当に筆を押しつけるように書くのではなく、しっかり起筆→送筆→収筆を意識して丁寧に書きましょう。
 

2、勒《ろく》

横画(横線)のことです。「永」の字の場合は短い横線ですが、「無」や「佳」など長い横線が出て来る字も多数。進行方向に筆管《ひっかん》を倒して書くと書きやすいです。
 

3、努《ど》

縦画(縦線)のことです。「弩(=いしゆみ、おおゆみ)」と書くこともあり、弓のように少しそらせて書くのが特徴です。ただし「律」や「峰」の縦画のように、弓なりにそらさないものも。時と場合に応じて書きわけましょう。
 

4、趯《てき》

「はね」のことです。あまり勢いよくはねすぎるのはNG。元気よさもたもちつつ、焦らず丁寧にはねてくださいね。「永」の字は左はねですが、もちろん「氏」や「武」のように右はねの字もあります。
 

5、策《さく》

短い横画のことです。「2、勒」と違うのは収筆がないということ。イチ、二のリズムでゆっくり右上に筆をすくい上げるように書きます。部首の「さんずい」や「にすい」、「つちへん」、「かねへん」などにも使われます。
 

6、掠《りゃく》

長い左はらいのことです。私ごとですが、私はこれが大のニガテ。左はらいを巧く書ける人をこよなく尊敬します。勢いよく(雑に?)筆をふり抜くように書くのではなく、最後まで穂先をのこす意識でゆったり書くのが大切です。
 

7、啄《たく》

短い左はらいのことです。「6、掠」よりも短く、収筆もないことから、左ななめ下に向かって直線的に書くのがコツ。書く速度としては「掠」よりもすばやく線を引くイメージで。
 

8、磔《たく》

右はらいのことです。初心者の方の多くは、「これが一番難しい」とおっしゃいます。起筆(書きはじめ)はほとんど力を入れず、穂先が紙に着地してからじわじわと力を込めていき、それにともなって筆が開きます。最後はらうときは、上にはね上げるのではなく筆を横へと抜いていくイメージで書くとよいです。
 


 
以上、「永字八法」をご紹介してきました。文字だけではイメージしづらいと思いますので、動画とあわせてご覧ください。

最初のうちは、どの点画を書くのも難しいかもしれません。しかし、焦らず愚直にお稽古を重ねることが、上達への王道です。筆でもボールペンでも鉛筆でも、書けば書くだけ字は洗練されていくと思います。

「永」の字で楷書の基本を学んだら、次は自分の名前や苗字、住所など、日ごろよく使う文字を練習してみるのもおススメです。迷ったときは「永」の字に立ち戻って基礎の確認をしましょう。

引き続き、一緒に楽しくお稽古していきましょうね!

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