漢詩徒然草(27)「蟬」
熱於炎夏是鳴蟬 炎夏より熱きは 是 鳴蝉
萬樹作聲聲到天 万樹 声を作し 声は天に到る
活處七年邪七日 活する処 七年か七日か
不關生死一生全 生死を関せざれば 一生全し
炎夏 … うだるような暑い夏
鳴蝉 … 騒がしく鳴く蝉
生死《しょうじ》 … 生き死にのある迷いの世界(仏教語)
「蝉は地中で7年を過ごし、地上に出るとわずか7日間で死ぬ」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか?儚《はかな》い命の代名詞として知られている蝉ですが、実はこの話は事実ではありません。とは言え、一生のほとんどを地中で過ごすのは本当です。今回はそんな蝉たちに詩情を傾けてみましょう。
熱於炎夏是鳴蟬 炎夏より熱きは 是 鳴蝉
蝉の声が聞こえてくると、本格的な夏の到来を感じます。盛夏の暑い日差しにも決して負けてはいない、そんな蝉たちの大きな声。私たちの身の回りで、あれほどの声で鳴く動物もなかなかいないのではないでしょうか。まさに夏よりも熱い蝉たちです。
萬樹作聲聲到天 万樹 声を作し 声は天に到る
街中を歩いていも、到るところの木々からその声が聞こえてきます。まるであらゆる木々が声を上げているかのようで、その声はこの夏空のてっぺんまでも届いているのかと錯覚します。
活處七年邪七日 活する処 七年か七日か
そんな蝉たちが、懸命にその生命を生きているのを見ると「蝉は地中で7年を過ごし、地上に出るとわずか7日間で死ぬ」と言われている蝉の一生を思い出します。
蝉は飼育するのが難しく、その生活環はまだあまりよくわかっていません。その一生は、夏の半ばごろ、まず雌の蝉が木に産卵管を突き刺して、卵を産み付けることから始まります。卵が孵化するのは越冬後の翌年の初夏で、孵化した幼虫は木を降りて地中に潜り、それからの長い期間、木の根の汁を吸って成長します。
しかし、7年もの時間を地中で過ごす蝉は日本では稀《まれ》なようです。10年以上を地中で過ごす種《しゅ》もあるそうですが、一般的には数年といったところだそうです。また、環境によって幼虫の期間が変わることも知られていて、栄養の少ないところでは、成虫になるのにより時間がかかると言われています。
十分に成長した幼虫は、再び地上に這い出て、木の上に登って羽化します。ここからは、私たちのよく知る夏の日のあの騒がしい蝉の姿となるわけです。羽化後のセミの寿命も、わずか7日ということはなく、実際はもっと長く数週間から1ヶ月ほどだそうです。
不關生死一生全 生死を関せざれば 一生全し
一生のうちのほとんどを地中で過ごす蝉ですが、その蝉以外にも、地中には多くの虫たちが生活しています。さらにはモグラなど、その虫たちを食べる捕食者たちがいて、食物連鎖を形成しています。地中には地中を生きるものたちの世界があるのです。
そんな彼らを私たち人間のものさしで測るのは無意味な行為です。私たちが蝉を儚いと思うのは、地上でわずかしか生きられないのは可哀想と思う人間の思い込みがあるからではないでしょうか?
それぞれの生き物には、それぞれの時間や世界あり、また、その中で自己の生命を生きています。夏の暑さよりも熱い蝉たちのことです。地中でも何よりも熱く全力で生きていることでしょう。
このことは、私たち人間の人生でも結局、同じなのではないでしょうか?7年生きるとか、7日生きるとか、そんな生き死ににこだわらずに、毎日を懸命に生きることができたならば、どんな一生でも、この蝉たちのように熱い一生になるはずです。
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熱於炎夏是鳴蟬 炎夏より熱きは 是 鳴蝉
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萬樹作聲聲到天 万樹 声を作し 声は天に到る
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活處七年邪七日 活する処 七年か七日か
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不關生死一生全 生死を関せざれば 一生全し
平起式、「蟬」「天」「全」下平声・一先の押韻です。
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