初めての人のための漢詩講座 12
第二章 漢詩のルール
平仄式のルール
それでは、ついにルールを見ていきます。一番面倒くさいところですが、避けては通れないところです。以下のルールがあります。
1.起句、承句、結句は押韻し、転句は押韻せず●にする。
2.二字目と四字目は違う平仄にする。
3.二字目と六字目は同じ平仄にする。
4.一字目、三字目、五字目の平仄はどちらでもよい。
5.下三字は連続で同じ平仄(○○○ or ●●●)にしてはならない。
6.四字目が○の場合、その上下両方が●であってはならない。
(○○と最低二字○が続くようにする)
7.同じ字を二回以上使ってはならない(同じ句の中ではよい)。
前回の平仄式(平起式)を見てみましょう。すべての句が上記のルールに則っているのがわかると思います。
┏━━┳━━━━……2.二字目と四字目は違う平仄にする。
┏━━━━━┳━……3.二字目と六字目は同じ平仄にする。
起句 *○ *● ●○◎……1.押韻する。
承句 *● *○ *●◎……1.押韻する。
転句 *● *○ ○●●……1.押韻せず●にする。5.下三連は☓
結句 *○ *● ●○◎……1.押韻する。
┗━━┻━━┻━━……4.一、三、五字目の平仄はどちらでもよい。
一つずつ説明していきます。
1.起句、承句、結句は押韻し、転句は押韻せず●にする。
これはこれまでの説明のとおりです。
2.二字目と四字目は違う平仄にする。
3.二字目と六字目は同じ平仄にする。
4.一字目、三字目、五字目の平仄はどちらでもよい。
違う平仄とは、○なら●、●なら○ということ、
同じ平仄とは、○なら○、●なら●ということです。
一、三、五字目はどちらでもよいのですが、下記5、6のルールに抵触してはいけません。
5.下三字は連続で同じ平仄(○○○ or ●●●)にしてはならない。
ということは、下三字が取ることができる組み合わせは、
起・承・結句「●○◎」「○●◎」「●●◎」
転句 「○○●」「●○●」「○●●」
のいずれかということです。「4.一、三、五字目はどちらでもよい」というルールがありますが、この5のルールのため下三字はこのパターンしかありません。
6.四字目が○の場合、その上下両方が●であってはならない。
(○○と最低二字○が続くようにする)
つまり、○が●に挟まれている「●○●」の形になってはいけないということです。
上の平起式の場合だと、承句の四字目が○で、その上下は*(○●どちらでもよい)になっていますが、そのどちらかは必ず○でなければいけません。一方、転句の四字目の○は、五字目がすでに○ですので、気にする必要はありません。
7.同じ字を二回以上使ってはならない(同じ句の中ではよい)。
同じ字を用いると発音や内容が繰り返しになり、リズムを崩したり冗長になったりしてしまいます。
単純なルールですが、実際に漢字を選び出すときには注意しなければなりません。漢詩を作るときは候補の漢字をあれこれ試行錯誤して置いていきますので、ついついミスしてしまうのです。
以上のことを合わせると、各句の組み合わせは、
起・承・結句「*○ *● ●○◎」(平起式の起句・結句 or 仄起式の承句)
「*● *○ *●◎」(平起式の承句 or 仄起式の起句・結句)
転句 「*○ *● *○●」(仄起式の転句)
「*● *○ ○●●」(平起式の転句)
しかないことがわかります。
基本的なルールは、これですべて見てきましたが、実はもう一つルールがあります。しかし、これはルールといってもうれしいルールです。
8.平起式の転句の下三字「○●●」は「●○●」に変えてもよい。
五字目の○を六字目の●と入れ替えた形です。●で○を挟み込んでいるので、このルールを挟み平といいます。
平起式の転句は、 「*● *○ ○●●」ですので、
これを入れ替えると、「*● *○ ●○●」となります。
すると二字目が●、六字目が○となり、「3.二・六字目は同じ平仄にする」というルールを破ることになりますが、これが許されるのです。平仄の組み合わせの幅が広がるので、漢字を選ぶのがずいぶん楽になります。
それでは、この章のはじめに読んだ「楓橋夜泊」の平仄と押韻をもう一度確認してみましょう。
●● ○○ ○●◎
月落 烏啼 霜滿天 月落ち 烏啼いて 霜天に満つ
○○ ○● ●○◎
江楓 漁火 對愁眠 江楓 漁火 愁眠に対す
○○ ○● ○○●
姑蘇 城外 寒山寺 姑蘇城外の寒山寺
●● ○○ ●●◎
夜半 鐘聲 到客船 夜半の鐘声 客船に到る
起句の二字目が●ですので、仄起式です。
1.起句、承句、結句は「天」「眠」「船」の一先の韻で押韻しています。
2~4.各句、二・四字目は違う平仄、二・六字目は同じ平仄になっています。
5.下三字が○○○ or ●●●なっている句はありません。
6.起句と結句の四字目が○ですが、その上下が●で挟まれてはいません。
7.四句二十八字、すべて違う字が使われています。
ということで、すべてのルールが守らていることがわかります。
以上、平仄と押韻のルールを見てきましたが、いろんなルールを同時に考えないといけないので、頭が混乱したのではないでしょうか?
しかし、安心して下さい。これらのルールは確かに覚えておかないといけないものですが、実際に漢詩を作っている最中は、実は意識していなくてもよいのです。それは漢詩創作シートを使えばいいからです。
漢詩創作シートとは、どの平仄を当てはめればよいかをあらかじめ記しておいた七言絶句・二十八字を書き込む用紙のことです。漢詩創作シートをPDFファイルで用意していますので印刷して使って下さい。
このシートを使えば、今回のルールをいちいち気にしなくても、シートに書かれた平仄の指示にしたがって書いていけばよいだけなのです。また、漢字一つのマス目が大きいので、いろんな候補の漢字を並べて、試行錯誤しながら作ることができます。
それでは、やっとルールの説明が終わりましたので、いよいよ実際に漢詩を作っていきましょう。苦労もありますが、創作のよろこびを感じることのできる詩作のはじまりです。
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