西村古珠師講演『日日是好日』-3

西村 古珠
2021/5/1

編集部より:この講演録は、東日本大震災直後に行われた故西村古珠和尚の講演(平成23年4月18日 小田原市 昌福院様本堂にて)を元に寶林寺様で制作された冊子の内容を、故人のご夫人であります西村洋子様のご承諾を得て、転載させて頂いたものです。(全3回)
 
西村古珠和尚について→


その2からの続き)
 
お釈迦様は今から2500年前の方ですが、この世の苦しみから逃れる方法はないか、一所懸命修行をされて、12月8日の夜明けの明星を見て悟った。星がキラキラと光っているのをご覧になって、なるほど星が光っているのは、自分が光っているのだ、とハッキリとわかった。そして思わず、こうつぶやかれたのです。

奇なるかな、奇なるかな。一切衆生、ことごとく如来の智慧徳相を具有す。

なんと素晴らしいことだ。山も川も草も木も、あらゆる存在が今ここで私とひとつになって、永遠無限の真理の光に輝いている)

よく「自分の命を大切にしましょう」といいますが、本当は自分の命なんかない。自分のものなど、何一つないのですね。

「自分のもの」があるから、「自分のものじゃないもの」がある。そうすると人間は、「自分が可愛い、自分のものを増やしたい」という自分の欲望に迷わされてしまいます。自分の命が自分のものでしたら、生きるも死ぬも自由になるはずです。しかし実際にはそうではない。

本当は、「自分のものがない」とわかったら、一切衆生が自分のもの。自分とひとつになるのです。全世界、全宇宙が、自分とひとつになる。これこそが本当の自分だということが、わかるのですね。

大きな命の中の、ほんのちっぽけなこの命ですが、今ここで、自分が預かっている。そうしたら、預かっているんだから大事にしなければならない。それをわかるのが、「修行」ということなのです。


最後ですけれども、一つ詩を紹介させていただきたいと思います。

青木新門さんという方、この方は何年か前に『おくりびと』という映画がありましたが、その原作の『納棺夫日記』という本を書かれた方です。

その方の『末期患者には』という詩があります。末期患者とは、ガンなどで余命数ヶ月を宣告された方。よく考えてみたら、私たちひとりひとりが末期患者なのですね。いつ死ぬか分からない。明日までの命か、明後日までの命か、これは誰にもわからない。

末期患者には
激励は酷で善意は悲しいのです
説法も言葉もいらないのです
きれいな青空のような 瞳をした
透き通った風のような人が
そばにいるだけでいいのです

青木新門『詩集-雪道」(桂文社/2001年)


こういう詩があるのです。私もこれを読みまして、ああなるほどなあと思いました。

私も坊主の端くれとして、修行のまねごとの様なこともさせて頂いております。坊さんの世界では、五十、六十はハナ垂れ小僧。実は私、まだ五十代にもなっておりません。ハナ垂れ小僧にもなっていません。それでも何とかして、きれいな青空の様な瞳をした、透き通った風の様な人になりたいものだなあとおもっております。

「きれいな青空のような瞳をした、透き通った風のような人が、そばにいるだけでいい」

そう言っていただけるような人には、なかなかなれませんが、少しでも近づきたいと思っております。

日日是修行。
日日是好日。

ご清聴ありがとうございました。



(掲載にあたり、ブラウザ上での可読性を高めるため、段落分け等の一部を変更させて頂きました)
 


附記:

西村古珠和尚は平成30年に末期癌の宣告を受け、令和2年1月12日に満58歳の若さで遷化されました。

最期は坐禅をしたままの姿で、和尚を慕う沢山の人に見守られて、息を引き取られました。不治の病に冒されながらも、末期の瞬間まで「今、ここ」に徹し、禅僧としての生き方を貫かれたのです。

その姿は、まさに「きれいな青空のような瞳をした、透き通った風のような人」そのものでした。

率直で飾らない人柄や、裏表のない飄々とした物言い、そして人懐っこい笑顔で、子供から大人まで僧俗を問わず多くの人々から慕われていた古珠和尚。檀家がない小さなお寺でしたが、葬儀には境内に入りきれないほど沢山の方々が訪れました。

親交があった仏教学者の佐々木閑先生「我が敬愛する稀代の禅僧」と追慕され、円覚寺管長の横田南嶺老師も、和尚の遷化を深く惜しみながら「同じ時代に生きられたことを誇りに思います」「本当に尊い「真の禅僧」なのでした」と称賛されています。

多くの人の心にかけがえのないものを残して、去って行った古珠和尚。
もしお元気であれば、禅人メンバーの一員として共に活動して頂きたいと心から願っておりました。

古珠和尚への感謝の思いと、少しでも多くの人々に古珠和尚という禅僧を知って欲しいという願いを込めて、謹んで講演録をご紹介させて頂きました。
 
最後になりましたが、講演録の掲載にあたり快諾して頂いた奥様の西村洋子様に、心より感謝申し上げます。
 

ZENzine編集長 亀山博一 九拜

参考リンク:

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