文房四宝の詳細~その4 紙編

野田 芳樹
2022/7/3

1.紙の選び方

書を学びはじめる際、筆・墨に次いで選ぶのに迷うのは「どのような紙を使えばよいのか?」という点ではないでしょうか。

ご承知のように紙の種類はごまんとあり、それゆえ選ぶ際には様々に検討しなければいけないことが多々あります。しかし第一に検討しなければいけないのは筆を選ぶときと同じく、「どのような書を、どれくらいの大きさで書きたいのか?」ということです。

「書きたいのは漢字作品なのか、近代詩文書なのか、かな文字なのか?漢字であれば楷書・行書・隷書など、どのような書体なのか?」
「ただ練習をしたいだけなのか、作品として仕上げたいのか?」

これらを検討した結果によって、選ぶべき紙は変わってきます。
以下、書道用紙の大きさとどのような観点で紙を選ぶのよいかについてみていきましょう。


■よく使用される書道用紙の種類・大きさ

書道に携わる中で、特に使用される頻度の高いと思われる紙の名称と大きさを以下に記します。


(1)半紙(24cm ×33 cm)
(2)半懐紙《はんかいし》(25 cm×37 cm)
(3)半切《はんせつ》(35 cm×136 cm)
(4)全紙《ぜんし》(70cm×136 cm)
(5)二六《にろく》(60cm×181cm)
(6)三六《さぶろく》(90cm×181cm)

この中で、多くの方が先ず手にするのは半紙でしょう。私も日ごろは半紙で古典を臨書したり、先生のお手本を真似て書き、基礎をかためる稽古を重ねています。「とりあえず習字・書道を始めてみたい」「練習だけをしたい」という目的の方は、半紙を手に取りお稽古することをおすすめします。

半紙での稽古で書きたいものがある程度形になってきたら、半切に切り替えて練習するとよいでしょう。紙の面積が広い分、必然的に書ける文字数も増えるため、手本に流れるリズムの全体像を掴むのに適しています。半紙で書くだけでは物足りない、さらに力をつけたい、と思われる方はぜひ挑戦してみてください。

全紙・二六・三六などの大きなサイズは、主に展覧会に出品する際に使われます。展覧会によって紙のサイズ規定が必ずありますので、出品する際には必ず「出してもよい紙の大きさ」を確認しましょう


■「作品に合った紙質かどうか」の判断基準

大きさの次に紙を選ぶ際の極めて大切なポイントは紙の質でしょう。私が最も重視している「作品に合った紙質かどうか」の判断基準は、「書いたときのにじみ具合」です。

筆運びをゆっくりする必要がある場合(例えば、楷書や隷書、篆書などを練習する時など)は、にじみの少ない紙を選ぶことをおすすめします。筆・墨が紙に触れている時間が長ければ長いほど、どんどん墨が紙にしみ込んで文字の輪郭がぼやけ、結果「ちゃんと書けているのか?」が判断しにくくなるからです。そのため、特に初学の方はまずにじみの少ない紙で練習するのが無難と言えるでしょう。

逆に、筆運びをすばやくする必要がある場合(例えば、行書や草書、近代詩文書を練習する時など)は、適度ににじみやすい紙を選択する方がよいでしょう。にじみそのものや、墨の潤滑(たっぷり墨が入っている箇所とかすれている箇所の差)の変化がよく出る方が、味になるからです。


にじみ具合の良し悪しをどう判断するか?ですが、それは実際に試してみるしかありません。書道具屋さんに行き、書きたい書体や目指す書風を伝え、おすすめしてもらったものの中から自分で試し書きをしてみる(試し書きをさせてくださる道具屋さんも多くあります)。そして、いくつかの選択肢の中から「これぞ」と思うものを選ぶ――このプロセスがそのまま楽しさでもありますし、すすめられたものをいざ買って書いたら「思っていた書き心地と違う!」とげんなりするような、悲しい結末も回避できます。

自分の目指す作風に合った紙を選ぶプロセスも含め、楽しく吟味しましょう。紙選びの手がかりとして、以下に私のおすすめの紙をいくつか挙げておきますので、参考にしてみてください。


2.おすすめの紙3選

書道用紙は大きく分けて「手漉《てす》き」か「機械漉き」かの二種類に大別されます。手漉きは職人さんが一枚一枚丹誠に作っているものなので良質のものが多いのですが、その分値がはります。一方の機械漉きは手漉きの「数多くは作れない」という弱点を補うために大量生産を主な目的とした製法のため、質は劣るけれども値段が安いのが特徴です。

以下のおすすめは「初学の方が漢字・近代詩文書を書きたい場合に使いやすく、値段も手ごろな半紙」という基準で選定しました。値段も紙選びの大切な要素の一つですので、ご自身の予算と相談してみてください。

(1)墨友《ぼくゆう》

・製法:機械漉き
・購入先:日本ペン習字研究会・日本書道学院 公式通販

【特徴】

表面が適度に滑らかに仕立ててあり、スムーズに筆が運べます。そのため、特に行書や草書など、早くリズミカルに書く必要のある書体を練習する際に最適。値段がお手頃なのも助かります。


(2)恵風《けいふう》

・製法:機械漉き
・購入先:書道用品の栗成(楽天市場)

【特徴】

1の「墨友」と違い、表面が少しざらついているのが特徴的。表面のざらつきによって筆を運ぶ際に抵抗ができるため、楷書や隷書などゆったりとした書き方が求められる書体を練習する際に重宝します。


(3)孔雀《くじゃく》

・製法:手漉き
・購入先:石村紙店

【特徴】

1・2と違い、手漉きで作られている紙。紙面がやわらかいため非常に墨が入りやすく、にじみがきれいに表現しやすいのが特徴。私は、近代詩文書などで潤渇《じゅんかつ》のメリハリが特に求められる場合や、漢字作品(主に、行書や草書)の清書に使っています。


3. 書き損じた紙の扱い

作品を書いた際に出る書き損じや、使用済みの書道用紙のことを「反故紙《ほごし》」といいます。私も日々稽古をしていると、提出にたえる作品をつくるまでの過程で必ず反故紙が出てきます。(いわゆる「ボツ作品」です)

日ごろの稽古では半紙を使うことが多いためそこまで量は多くなりませんが、展覧会の時期ともなると大きなサイズの紙を何十枚も書くため、反故紙も大量に出ることになります。

展覧会の作品づくりの一コマ

書道に関わる多くの者にとって、反故紙が大量に出てしまうことは大きな悩みの種です。自分が書いたものを捨てなければならない悲しさもさることながら、自然環境のことを考えれば大量の紙を使用・破棄することは、環境保護の重要性が叫ばれる現代の潮流に明らかに逆行しているからです。

書き損じは押さえ紙として使ったり、洗った後の筆や硯を拭くのに使用したりしますが、結局のところはゴミ箱行き。しかも墨のついた紙は「禁忌品《きんきひん》」というリサイクルに回せない紙類として扱われるため、資源回収などにも出せません。

そんな悩みを解消してくれる素晴らしい取り組みがあることをご存知でしょうか?それは一般社団法人 エコ再生紙振興会」さまの実施する「書道紙リサイクルプロジェクトです。

これに申し込むと、反故紙回収用のエコバッグを送ってくださいます。

送られてくる「書道エコバッグ」

この中に反故紙を溜めて会へ返送すると、その紙を原料としてリサイクルして新しい紙へと生まれ変わるのです。再生された紙は「未来箋《みらいせん》」という名前で販売され、書を楽しむ方々の手元へと戻ってきます。

「未来箋」半紙。少し灰色みのある色をしていて、書き心地はなめらか

私自身このプロジェクトを初めて知ったとき、「書道を末永く楽しみながら稽古するためには、環境への配慮も心がける必要がある」とハッとさせられました。そもそも、「稽古」とは「稽古照今《けいこしょうこん》」の略であり、「古《いにしえ》を稽《かんが》え今に照らす」と読みくだします。つまり、過去から学んだことを今の世を生きるための指針とする、というのが稽古の本来の意味です。

今の自分の培った技術は、先人たちが積み重ねてきた書道の歴史や体系、また様々な書道具の発明・発展があってこそ身についたものです。また、自分が今まで使ってきた書道具や反故にしてきた紙のおかげでもあります。その事実を「稽え」、私たち一人ひとりが未来のために今何をすべきか慮って行動することが大切でしょう。とは言え個々人にできることには限りがありますから、書家として身近にできる環境への配慮としてこのプロジェクトをご紹介した次第です。

もし反故紙の扱いに困っている知人やお教室などが思い浮かぶ方は、ぜひこのプロジェクトを紹介・加入してはいかがでしょうか?


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