仏教の教えに学ぶ「幸せ」とは

蘆田 太玄
2021/8/15

世の中には大小様々な尺度からなる「幸せ」が存在します。沢山の収入を得ること。社会的に高い地位を得ること。もっと小さなものなら美味しいものを食べたり感動的な風景に遭遇した時などにも「幸せ!」と感じることもありますよね。

ところが、こういった幸せとは、

・得られたとしてもいつかは失われてしまうかもしれないものである
・得られたとしてもその幸せに満足できず、さらなる幸せを求めてしまうものである

といったような問題点を抱えています。このように考えていくときりがなく、幸せを求めるあまり、新たな苦しみを生んでしまう、という本末転倒なことになってしまいます。そんなときには仏教の教えから「幸せ」について考えてみると良いでしょう。



『ダンマパダ』というお釈迦様の教えをまとめた古い経典には次のようにあります。
 

「戦場において百万人に勝ったとしても、ただ一つの自分自身に勝つことの出来る者こそが最高の勝者である」

『ダンマパダ(法句経)』より

この言葉について花園大学の教授で仏教学者の佐々木閑先生が、自身のYouTubeチャンネルの中で次のように評されています。
 

「正しい人の生き方は自分に勝つことである。この言葉には、社会制度や人の決めたシステムの中で幸せをつかむということではなくて、自分が自分の力で自分のあり方を決めていくべきであるという釈迦の思いが込められている」

(佐々木閑「仏教哲学の世界観」1-(3)より)

仏教的な「幸せ」とはあくまで「自分自身に勝つこと」によって得られるということです。
これは、「他人の決めた価値観や尺度に振り回されない」という風に言い換えても良いかと思います。



最近は「口コミ」というものが明確なデータとしてインターネット上ですぐに検索できる、便利な世の中になりました。初めて行くお店であっても口コミを見ればそのお店を世の中の人がどう評価したのかが分かる。便利なことではあります。

反面、口コミの評価はそんなに高くなかったけれども実際に行ってみるととてもいいお店だった、という経験も実は多くの方がされているのではないかと思います。

口コミはあくまで他人の評価や価値観であって、参考にすることはあっても絶対唯一の真実ということはあり得ません。よく考えてみれば分かることですが、しばしば私たちが忘れがちなことではないかと思います。

大事なことは自分の頭で考え、自分で経験してみることです。
人の考えに振り回されているから、上手くいかなかった時に人のせいにしたくなるのです。

成功体験は自信を持つことにつながり、失敗体験は謙虚さを持つことにつながります。また、どんな経験であっても自分自身がした経験の積み重ねであるならば、必ず自分の心を豊かにすることにつながっていきます。これが「自分に勝つこと」であり、お釈迦様の教えに見る「幸せ」の姿なのです。

世の中の流れとして、人の目や人の評価がより気になってしまいがちですが、だからこそ、自分の経験や思いを大切にすることも忘れないように心がけたいものです。


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