初めての人のための漢詩講座 29

平兮 明鏡
2022/2/1

第三章 漢詩を作ろう

*上級編! 起承転結とは?

起承転結は漢詩の基本的な構成ですが、これは小説など他の分野でも見ることができます。

  … 詠いこす。物語を始める導入部分。
 … 起をける。物語をふくらませる展開部分。
  … 別のところにじる。物語を変化させる転換部分。
  … まとめてぶ。物語を締めくくる結論部分。

江戸時代の学者・賴山陽が、弟子に起承転結を教えるために用いたといわれている「糸屋の娘」という歌があります。

 起 「京都三条、糸屋の娘」
 承 「姉は十六、妹は十四」
 転「諸国大名は弓矢で殺す」
 結 「糸屋の娘は目で殺す」

内容には諸説あり、いろんなバリエーションがあるのですが、起承転結を説明するのに非常にわかりやすい例えになっています。

「京都三条の糸屋の娘」
詠い起こしで、まず糸屋の娘が登場します。

「姉は十六、妹は十四」
次に話をふくらませて、どのような姉妹かを述べていきます。

「諸国大名は弓矢で殺す」
いきなり諸国大名が出てきて話が転換します。糸屋の娘はどこに行ったんだ?と思ってしまいますが、例えは極端な方がわかりやすいのです。

「糸屋の娘は目で殺す」
転の「弓矢で殺す」を承けつつも、起・承の「糸屋の娘」に返っています。これですべてが一本に繋がりました。結は、転と起・承を一つにまとめ物語を締めくくるの役割があるのです。


本講座で挙げた漢詩から起承転結の例を見てみましょう。はじめに取り上げた「少年老い易く学成り難し」の絶句です。

少年易老學難成 少年 老い易く 学成り難し
一寸光陰不可輕 一寸の光陰 軽んずべからず
未覺池塘春草夢 未だ覚めず 池塘 春草の夢
階前梧葉已秋聲 階前の梧葉 已に秋声

「少年老い易く、学成り難し」
まず、時間はあっという間に過ぎ去ってしまうということを、人生に例えて詠い起こします。

「一寸の光陰、軽んずべからず」
だから時間を大切にしなさい、と起句を承けます。

「未だ覚めず、池塘春草の夢」
転句では、いきなり庭の池の風景に転じます。

「階前の梧葉 已に秋声」
転句の庭の風景を承けつつも、起承の時間の流れの話に返ります。

はじめのうちは、詩語を選び出すのがやっとで、なかなか構成までは頭が回らないと思いますが、いきなり詩語を選び出すのではなく、その前に頭の中で起承転結のイメージを作り上げておいた方が、結果として上手くいきます。

漢詩に決まった作り方はありませんが、まずはこの起承転結の構成になっているかを確認しながら作り始めてみてください。「糸屋の娘」を思い出しながら作っていくのもよいでしょう。

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