初めての人のための漢詩講座 23

平兮 明鏡
2021/11/1

第三章 漢詩を作ろう

*資料集! 詩語集とはどんなもの?

実際に見てみるのが一番です。ここでは詩語集がどのようなものか知ってもらうために、詩語集の一部を掲載しています。

詩語集では数多くの詩語が、季節・自然・生活・人生など細かく項目別にまとめられて収録されています。

以下の詩語表は「春の田園」のページのみの抜粋ですが、見てみるとまさにその情景を描き出すパズルのピースになっているのがわかるのではないでしょうか。

(26)「実際の作例」では、すべてここから詩語を選んで作っています(太字の部分)。もちろん内容に合ってさえいれば、他のページから選んできても構いません。


「春の田園」

【二字のパーツ】

(○○)
韶光 春光 煙光 韶華 軽煙 東風 春風 風煙 霏霏 溶溶 青青
桃山 山容 東郊 春郊 春城 孤村 田家 柴門 花堤 春畦 春畦
公園 旗亭 幽荘 山荘 平蕪 芊綿 江南 鶯声 禽声 喈喈 鐘声
拈花 看花 紅紅 芳菲 梨桃 残桜 梨花 残梅 逍遙 徘徊 悠然
閑行 吟行 吟人 詩人 遊人 行人 幽人 児童 芒鞋 軽車 清談
塵縁 頻頻 冶春 春愁 春心 悠悠 斜陽 春暉 遅遅 清明 
誰家(誰が家の) 雨晴(雨晴れて) 行迷(行ゆく迷う)
春深(春は深し) 吟風(風に吟ず) 人耕(人は耕す)
燕来(燕は来る) 呼杯(杯を呼ぶ) 風暄(風暄か) 
題詩(詩を題す) 依稀(依稀たり) 何辞(何ぞ辞せん)
帰来(帰り来る) 花繁(花は繁し) 澆愁(愁を澆《そそ》ぐ)
雲流(雲は流る) 曾遊(曾て遊ぶ)

(●○)
賞春 踏青 暖風 嫩晴 野桃 杏花 一樽 一川 一眸 野禽 故人 
野翁 樹陰 物華 水郵 綺羅
会朋(朋を会して) 草薫(草は薫ず) 遣懐(懐を遣《や》る)  
彩加(彩は加わる) 不寒(寒からず) 路遥(路は遥かなり) 
去追(去って追う) 不知(知らず)

(●●)
十里 半里 一路 一水 一白 淡粉 細雨 漫歩 散歩 緩歩 歩歩 
麗日 白白 草色 野色 麦隴 半酔 少婦 渡口 遠寺 野寺 水寺
逸興 地僻 柳浪 極目 満目 満眼 尽日 小憩 四望 鳥語 燕影
夕照 塔影
家在(家は在り) 去訪(去って訪う) 藉草(草を藉《し》いて)
涙落(涙は落つ) 笑叩(笑って叩く) 坐久(坐すること久し)
蝶舞(蝶は舞う) 歩逐(歩して逐う) 信歩(歩に信《まか》せて)
戯蝶(蝶に戯る) 踏尽(踏み尽くす) 発処(発《ひら》く処)
草乱(草は乱る) 笑向(笑って向う) 誤趁(誤って趁《お》う)
犬睡(犬は睡る) 又訪(又訪う)   欲賦(賦せんと欲す)
会友(友と会す) 不到(到らず)   適意(意に適す)
問路(路を問う) 不識(識らず)   拾翠(翠を拾う)
最在(最も在り) 到処(到る処)

(○●)
春色 春興 花雨 村落 籬落 庭院 田圃 田畝 花径 帰路 車馬 
芳草 花下 楊花 春樹 幽草 前嶺 士女 児女 詩客 吟杖 詩趣
春鳥 雲雀 村外 郊外 行楽 茅店 懐抱 吟嘯 蕭寂 天地 微雨
天気 無限 随意
春遍(春は遍し) 風暖(風暖かに) 尋訪(尋訪す)
鶯語(鶯は語る) 家在(家は在り) 行聴(行ゆく聴く)
来訪(帰り訪う) 人去(人は去る) 無際(際無く)
春漲(春は漲る) 無客(客無く)  風軟(風は軟らかなり)
紅減(紅は減ず)


【三字のパーツ

[上平声・一東韻]

(●○◎)
水西東(水の西東) 百花紅(百花紅なり) 賞心同(賞心同じ)
古城東(古城の東) 杏花紅(杏花紅なり) 画図中(画図の中)
一村東(一村の東) 叩禅宮(禅宮を叩く) 淡煙中(淡煙の中)
酒旗風(酒旗の風) 囀東風(東風に囀る) 又多風(又多風)
野花叢(野花の叢《くさむら》) 

(●●◎)
一径風(一径の風) 淡靄中(淡靄の中) 活画中(活画の中) 
駘蕩中(駘蕩の中) 処処同(処処同じ) 望不窮(望窮《きわま》らず)
小径通(小径通ず)

(○●◎)
楊柳風(楊柳の風) 西又東(西又東) 深浅紅(深浅紅なり)  
春水通(春水通ず) 古梵宮(古梵宮) 微雨中(微雨の中)


[上平声・六魚韻]

(●○◎)
雨晴初(雨晴る初め) 杏花初(杏花の初め) 野人居(野人の居)
似村居(村居に似る) 午晴初(午晴の初め) 白雲居(白雲の居)
摘春蔬(春蔬を摘む) 午風疎(午風疎なり) 過君居(君が居を過ぐ)
過村墟(村墟を過ぐ) 駆軽車(軽車を駆る) 叩君廬(君が廬を叩く) 
午眠餘(午眠の餘)  柳枝梳(柳枝を梳《くしけず》る)

(●●◎)
燕到初(燕到る初め) 草不鋤(草鋤かず) 花発初(花発《ひら》く初め) 
竹影疎(竹影疎なり) 望靄如(望靄如)  柳眼舒(柳眼舒《の》ぶ)
意晏如(意晏如たり) 意淡如(意淡如)  草色舒(草色舒《の》ぶ)
一巻書(一巻の書)  歩自徐(歩自ずから徐《おもむろ》なり)

(○●◎)
塵事疎(塵事疎なり) 花落餘(花落ちる餘) 春雨餘(春雨の餘)
春暖初(春暖の初め)


[上平声・四支韻]

(●○◎)
鳥先知(鳥先ず知る) 被風吹(風に吹かる) 興尤奇(興尤も奇なり) 
主人誰(主人は誰ぞ) 逐蜂児(蜂児を逐う) 闘芳姿(芳姿を闘わす)
愛風姿(風姿を愛す) 共追随(共に追随す) 独思詩(独り詩を思う)
問花期(花期を問う) 柳成絲(柳糸を成す) 酔何辞(酔何ぞ辞せん)
日西移(日西に移る) 憶童時(童時を憶う) 半離披(半ば離披たり) 
十分奇(十分奇なり) 暮鐘時(暮鐘の時)  踏青之(青を踏んで之《ゆ》く)
訪君時(君を訪う時) 酔吟時(酔吟の時)  負佳期(佳期に負《そむ》く)
鳥相窺(鳥相窺う)

(●●◎)
麦笛吹(麦笛を吹く) 勧酒卮(酒卮を勧む) 野水涯(野水の涯《ほとり》) 
玉笛吹(玉笛を吹く) 草色宜(草色宜し)  不可知(知るべからず)
憶旧時(旧時を憶う) 脚又疲(脚又疲る)  得句遅(句を得ること遅し) 
不失期(期を失せず) 午景移(午景移る)  慰我思(我が思いを慰む) 
 
(○●◎)
花信遅(花信遅し) 帰更遅(帰ること更に遅し) 何処之(何れの処にか之《ゆ》かん) 
花外籬(花外の籬) 紅満枝(紅枝に満つ)    何所之(何《いづく》に之《ゆ》く所ぞ)
桃李枝(桃李の枝) 芳草滋(芳草滋し)


[上平声・八斉韻]

(●○◎)
小江堤(小江の堤) 入芳蹊(芳蹊に入る) 与天斉(天と斉《ひと》し) 
故人栖(故人の栖) 叩幽栖(幽栖を叩く) 暮鴉栖(暮鴉栖む) 
一江西(一江の西) 草萋萋(草萋萋たり) 向林低(林に向って低《た》る) 
夕陽西(夕陽の西) 任遊蹄(遊蹄に任す) 酔相携(酔うて相携う)
客心迷(客心迷う) 満春畦(春畦に満つ) 犯沙泥(沙泥を犯す)
路高低(路高低)

(●●◎)
野色斉(野色斉し) 満地迷(満地迷う) 酒可提(酒提《ささ》ぐべし)
草色斉(草色斉し) 雨一犁(雨一犁)  歩古堤(古堤を歩す) 

(○●◎)
花満隄(花隄に満つ) 花下蹊(花下の蹊) 花一畦(花一畦)
伝午雞(午雞を伝う) 帰路迷(帰路迷う) 詩可題(詩題すべし) 
鶯独啼(鶯独り啼く) 春鳥啼(春鳥啼く) 斜日低(斜日低《た》る) 
香満泥(香泥に満つ) 


[上平声・十灰韻]

(●○◎)
冶春催(冶春催す) 送春来(春を送って来る) 簇軽埃(軽埃簇《むらが》る) 
夕陽催(夕陽催す) 破愁来(愁を破って来る) 独徘徊(独り徘徊す)  
曲江隈(曲江の隈) 踏青来(青を踏んで来る) 酒盈杯(酒杯に盈《み》つ)
一花開(一花開く) 燕帰来(燕帰り来る)   撲吟杯(吟杯を撲《う》つ)
緑山隈(緑山の隈) 浄無苔(浄うして苔無し) 鳥飛回(鳥飛び回《かえ》る)
問残梅(残梅を問う) 

(●●◎)
戸半開(戸半開く) 気快哉(気快哉)   落日頽(落日頽《くず》る)
柳眼開(柳眼開く) 酒一杯(酒一杯)   手自栽(手ら自ずから栽う) 
詩興催(詩興催す) 雨長苔(雨苔を長ず) 爛漫開(爛漫として開く) 
水一隈(水の一隈)

(○●◎)
深浅開(深浅開く) 吹面来(面を吹いて来る) 追蝶来(蝶を追いて来る)
花色開(花色開く) 呼酒来(酒を呼んで来る) 春雨催(春雨催す)


[上平声・十三元韻]

(●○◎)
竹為垣(竹垣と為す) 雨猶繁(雨猶繁し) 小池渾(小池渾《にご》る) 
入孤村(孤村に入る) 百花繁(百花繁し) 掩柴門(柴門を掩《おお》う)
歩公園(公園を歩す) 杏花園(杏花の園) 遶松根(松根を遶《めぐ》る) 
入春村(春村に入る) 杏花村(杏花の村) 向誰論(誰に向って論ぜん)
落花飜(落花飜る)  野人園(野人の園) 恵風暄(恵風暄かなり)
落花村(落花の村)  緑陰村(緑陰の村) 悩詩魂(詩魂を悩ます)
夢猶存(夢猶存す)  有煙痕(煙痕有り) 月黄昏(月黄昏)

(●●◎)
野草繁(野草繁し) 柳圧軒(柳軒を圧す) 月一痕(月一痕) 
遠近村(遠近の村) 柳払門(柳門を払う) 酒一樽(酒一樽)
数畝園(数畝の園) 叩竹門(竹門を叩く) 路欲昏(路昏《くら》からんと欲す) 
五柳門(五柳の門) 又断魂(又魂を断つ) 不可言(言うべからず) 
竹裏門(竹裏の門) 歩古原(古原を歩む) 一水奔(一水奔る) 

(○●◎)
花後村(花後の村) 風日暄(風日暄かなり) 花圧軒(花軒を圧す)
軽脚跟(脚跟軽し) 風日温(風日温かなり) 誰氏園(誰が氏の園ぞ)


[転句]

(○●●)
芳草野(芳草の野) 芳草岸(芳草の岸)  鶯語巧(鶯語巧みなり)
歌管外(歌管の外) 春好処(春好き処)  花落尽(花落ち尽くす)
農舎外(農舎の外) 三里路(三里の路)  帰路晩(帰路晩《おそ》し) 
林影外(林影の外) 春雨後(春雨の後)  逢急雨(急雨に逢う)
茅舎外(茅舎の外) 寒食後(寒食の後)  紅爛漫(紅爛漫) 
楊柳陰(楊柳の影) 行楽事(行楽の事)  花径暖(花径暖かなり)
花不語(花語らず) 多野興(野興多し)  村巷静(村巷静かなり)
花乱落(花乱落す) 村店酒(村店の酒)  吹酔面(酔面を吹く)
紅袖湿(紅袖湿う) 春亦老(春亦老ゆ)  吾意適(吾が意に適う) 
真快意(真に快意) 農事急(農事急なり) 催雨急(雨を催すこと急なり)
香不断(香断えず) 添酒味(酒味を添う) 村落静(村落静かなり)
生暖気(暖気生ず) 潮水碧(潮水碧なり) 花似睡(花睡るに似たり)
平野遠(平野遠し) 花雑柳(花柳を雑う) 春寺静(春寺静かなり) 
城市遠(城市遠し) 追野蝶(野蝶を追う)

(○○●)
紅塵裏(紅塵の裏) 村居趣(村居の趣)  花争発(花争い発《ひら》く)
春郊路(春郊の路) 春川碧(春川は碧)  帰来晩(帰来晩《おそ》し)  
江南路(江南の路) 風吹断(風吹断す)  衣裳冷(衣裳冷かなり) 
探春路(探春の路) 旗亭晩(旗亭の晩)  春将老(春将に老いんとす)
人間事(人間の事) 帰牛影(帰牛の影)  如人語(人の語るが如し) 
終年楽(終年の楽) 江村晩(江村の晩)  知何処(知んぬ何れの処ぞ)  
春無跡(春跡無し) 江村暮(江村の暮)  春風晩(春風晩《おそ》し)
桃花下(桃花の下) 村童在(村童在り)  東風暖(東風暖かなり) 
茅檐下(茅檐の下) 春如夢(春夢の如し) 誰家女(誰が家の女ぞ)  
疎籬外(疎籬の外) 看飛燕(飛燕を看る) 題詩去(詩を題して去る)
桃李外(桃李の外) 春心蕩(春心蕩たり) 風駘蕩(風駘蕩)
多遊蝶(遊蝶多し) 花侵路(花路を侵す) 晴三日(晴三日)  
平蕪遠(平蕪遠し) 花相似(花相似たり) 

(●○●)
折楊柳(楊柳を折る) 踏青去(青を踏んで去る) 出城去(城を出でて去る)
偶然出(偶然に出ず)

 
※「望・看・過・思・駘・探」の平仄は○●どちらでもよい。

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