心身の苦痛に心を取り乱さないためには?

皆様、ごきげんよう。仏教学者の佐々木閑です。この連載では、皆様からの質問に私がお答えします。仏教やお釈迦様に関する質問だけでなく、思いついたこと、なんでもいろいろ聞いて下さい。全部お答えすることはできませんが、面白い質問や大切な質問を取り上げて、できるだけ分かりやすくお答えします。
ただし、禅については禅宗のお坊さんに聞いて下さいね。
Question :
不治の病により常時激しい身体の苦痛を抱えている状況で、心を取り乱さないようにするには、どのように対処すれば良いでしょうか。このような時のためのお釈迦様のお教えは有りますか。
(ペンネーム「山忠」さんの質問)
Answer :
仏教では肉体の痛みは消せません。私たちがどれほど努力しても、「老・病・死」の苦しみから逃れ出ることはできない。それが、釈迦の説くこの世の在り方です。しかし、釈迦の教えに従って努力することで、心の苦しみは消すことができます。釈迦の教え自体が「苦しみの中で心を取り乱さないよう生きる」ための教えなのです。まずは「ダンマパダ(法句経)」など、分かりやすい教えをゆっくりお読みになることをお勧めします。
これは誰もが思う疑問です。今どれほど健康で自由に暮らしている人でも、生き物である以上、必ず死が訪れますし、人によっては、その前につらい病気の時期を過ごさねばなりません。私たちの人生は、どれほど努力しても老・病・死という苦しみから逃れ出ることはできないというのが釈迦の説くこの世の在り方です。
しかしそのことがいくら頭で分かったとしても、肉体的な苦痛は和らぎません。心の中が清らかになっても、それによって生物としての生理的痛みは消せないのです。お釈迦様自身、菩提樹の下で悟りを開いた後も、何度か病気になり、苦しい目に遭いました。そして最後は食中毒で衰弱して亡くなったのです。
ですから「仏教の教えで病気の痛みはなくせますか」という質問でしたら、それに対しては「無理です。仏教は心の苦しみは消せますが肉体の痛みは消せません。その仕事は医療にお任せします」とお答えせざるを得ません。
しかし、「病気で苦しんでいる時に、心を取り乱さないようにすることができますか」というご質問に対しては、「それこそが仏教という宗教の一番の目的です」とお答えいたします。
私たちは心と肉体という全く別々の二つの部品の組み合わせでできているわけではありません。
仏教では、キリスト教やイスラム教のように魂の存在を認めませんから、私たちは肉体と心の両方が一体化した一個の存在だと考えます。ですから自分が肉体の苦しみだと思っている中にも、心から来る苦しみも混じります。
たとえば、毎日ひどい痛みに苦しんでいる人の、その痛みそのものは間違いなく肉体の苦しみなのですが、それに加えて、そのような状態にいることの精神的苦痛にも悩まされます。まさに「生きていることの苦しみ」です。
たとえ肉体的苦しみが医療によって一時的に減じても、「なぜ私はこのような状態で生きねばならないのか。生きることの意味はなんなのか」といった悩みはついて回るでしょう。
その時にはブッダの教えが助けになります。私たちの真の姿を語り、そしてあるべき心の持ちようを説いてくれる仏教の教えによって心の安らぎを得られた方は大勢おられます。
ご質問の中に、「このような時のために、お釈迦様のお教えは有りますでしょうか」というお言葉がありますが、実は仏教の教え全体が、「このような時のための教え」です。
たとえば「ダンマパダ」など、分かりやすい教えをゆっくりお読みになることをお勧めします。普段なら「なかなかいいこと言っているな」といった程度で受け止めていた言葉も、違った状況で読むと身に迫って感じられるものです。私自身、ダンマパダの教えで救われた体験があります。
お身体大事になさってください。健やかな日々を念じ上げます。
編集部より:佐々木先生が取り上げた「ダンマパダ」については、以下を参考にしてください。
ダンマパダ(法句経):
『法句経』(ほっくぎょう)、または『ダンマパダ』(巴: Dhammapada)は、仏典の一つで、仏教の教えを短い詩節の形(アフォリズム)で伝えた、韻文のみからなる経典である。(Wikipedia→)
ダンマパダについて書かれた本:
『ブッダの真理のことば・感興のことば』
(中村元・岩波文庫)
公式HP Amazon
『ブッダ 真理のことば(100分de名著)』
(佐々木閑・NHK出版)
公式HP Amazon
『ブッダ 100の言葉』
(佐々木閑・宝島社)
公式HP Amazon
『ブッダ 繊細な人の不安がおだやかに消える100の言葉』
(佐々木閑・宝島社)
公式HP
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