漢詩徒然草(52)「宇宙犬」

飛去幾千里 飛び去ること 幾千里
地球窗下靑 地球 窓下に青し
何知宇宙犬 何をか知る 宇宙犬
獨瞰故鄕星 独り瞰す 故郷の星
詩題は「宇宙犬」、あるいは「宇宙の犬」といったところですが、ここはあえて「Space Dog」としましょう。というのも、この詩はコナミ(現コナミデジタルエンタテインメント)のアーケードゲーム「pop’n music 11」に収録されている楽曲「Space Dog」(作詞作曲:村井聖夜 歌:Sana)を題材にしているからです。
もちろん漢詩では、読みに当て字で英語を用いることなどあり得ませんが、原曲に敬意を表して、このようにしています。
全文英語の歌詞ですが、文末の(*註)から是非、読んでみてください。
優しげなメロディと歌声に反して、その歌詞の内容が心を大きく揺さぶります。
この曲を聴いたとき、そして、この歌詞を読んだときは戦慄を覚えました。というのも、この楽曲は、人工衛星スプートニク2号に乗り、生物として初めて地球の衛星軌道を周回した犬の話をモチーフとしているからです。その犬の名前は「ライカ」あるいは「クドリャフカ」といいます。
スプートニク2号が打ち上げられた1957年の当時、旧ソ連とアメリカは冷戦状態にあり、宇宙開発競争もその一端でした。スプートニク2号のわずか1ヶ月前に打ち上げられたスプートニク1号は、世界で初めての人工衛星です。この旧ソ連の一連の宇宙開発計画をスプートニク計画といいます。
スプートニク2号は、そのような宇宙開発黎明期の技術で建造されたため、もともと大気圏への再突入を想定していない設計でした。つまり、ライカの宇宙への旅は、帰還することのない片道切符だったのです。
「地球は青く輝いているよ」
Hello people!
I’m a Space Dog
to aim at going over stars
Can you hear me?
I’m a Space Dog
the earth is shining blue…
ライカの最期がいつだったのかは、実はよくわかっていません。打ち上げ後、数時間後だったとも、数日後だったとも言われています。ライカはその時、眼下に青く輝く故郷の星を眺めていたのでしょうか?
「ボクの鼻で新天地を探し出すんだ」
Hello people!
I’m a Space Dog
to seek new frontiers by my nose
Can you hear me?
I’m a Space Dog
the sun and plants go far away
作曲者である村井聖夜さんは、「pop’n music 11」公式サイトで、この曲はあくまでスプートニク2号をモチーフとしているだけで、現実のライカとは別ものの未来の物語だとコメントしています。確かに、その歌詞の端々には、そのような創作のパートが見られます。
しかし、それでもこの曲を聴くと現実のライカを思わずにはいられません。それほど人類がライカに課した運命は過酷なものでした。
「彼は微笑んで『大丈夫だよ。キミはいい子だし勇気もある』と言ったんだ」
I remember that time
when I was born
he was watching to me
in the cage that made by glass
One day, he told to me
I’ll board the new rocket
a little scared but he smiled and said
“Never mind, you are good boy and brave”
このパートは、主人公の犬が生まれてから、宇宙探索の使命を与えられる場面です。もちろん、これは現実のスプートニク計画とは別の物語なのですが、宇宙に旅立つことになった犬の悲哀よりも、人間の身勝手さの方を強く感じるのは私だけでしょうか?
この物語の登場人物にどのような意思があったかはわかりませんし、その宇宙犬の未来は、ライカの最期とは違ったものを予感させます。しかし、このパートのやりとりは、どうしても現実のライカのことを連想して、底方《そこい》なき人間の悪意を感じてしまうのです。
「ボクはきっと星のカケラを持って、地球に帰ってくるよ」
Hello people!
I’m a Space Dog
not first one, but the only one
Can you hear me?
I’m Space Dog
to goes on with the speed of light
Hello people!
I’m a Space Dog
this journey takes a long long time
Don’t forget me
I’m a Space Dog
I’ll come back to the earth and
bringing in the piece of star
天気予報、衛星放送、GPS……人工衛星をはじめとする宇宙開発技術によって、現代に生きる私たちは、さまざまな恩恵を受けています。その端緒には、宇宙に旅立って帰って来なかった一匹の宇宙犬がいます。
スプートニク計画の動物実験も、もちろん最終的に人間が宇宙に旅立つためのものです。ライカをはじめとして帰還できなかった宇宙犬もいましたが、その後の宇宙犬たちの多くは、地球への生還を果たしています。そして1961年、ついにガガーリンによって、人類初の有人宇宙飛行に成功するのです。
それを思うと、作曲者である村井聖夜さんは、ライカへの感謝を込めて、このような物語にしたのではないでしょうか。新天地を探し出して、そして、きっと地球に帰ってくる――「Space Dog」は、ライカに対する救い、あるいは祈りなのかもしれません。
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飛去幾千里 飛び去ること 幾千里
●○◯●◎
地球窗下靑 地球 窓下に青し
◯○●●●
何知宇宙犬 何をか知る 宇宙犬
●●●○◎
獨瞰故鄕星 独り瞰す 故郷の星
五言絶句・仄起式、「靑」「星」下平声・九靑の押韻です。
転句は、テーマである「宇宙犬」をどうしても使いたかったため、下三連の禁則を破っています。「初めての人のための漢詩講座 28」で述べたように、仄三連(●●●)の場合は比較的、その縛りがゆるいのです。
(*註)「Space Dog」(作詞作曲:村井聖夜 歌:Sana)
Hello people!
I’m a Space Dog
to aim at going over stars
Can you hear me?
I’m a Space Dog
the earth is shining blue…
Hello people!
I’m a Space Dog
to seek new frontiers by my nose
Can you hear me?
I’m a Space Dog
the sun and plants go far away
I remember that time
when I was born
he was watching to me
in the cage that made by glass
One day, he told to me
I’ll board the new rocket
a little scared but he smiled and said
“Never mind, you are good boy and brave”
Hello people!
I’m a Space Dog
not first one, but the only one
Can you hear me?
I’m Space Dog
to goes on with the speed of light
Hello people!
I’m a Space Dog
this journey takes a long long time
Don’t forget me
I’m a Space Dog
I’ll come back to the earth and
bringing in the piece of star
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