初めての人のための漢詩講座 7

平兮 明鏡
2021/5/15

第二章 漢詩のルール

*資料集! 韻字表

下の表を見てみると、「一東」「二冬」……と並んでいます。これが韻の分類です。

各韻に含まれる漢字は、これがすべてではありません。ここでは、使いやすいなじみのある漢字のみを挙げています。もっと詳しく知りたい方はインターネットで「韻字表」や「韻目表」と検索してみてください。掲載しているサイトをいくつも見つけることができます。詳しい韻字表があると、それだけ選択肢が広がり作りやすくなります。

上平声

一東 | 翁窮宮弓攻洪功公工紅鴻終充崇聡叢忠虫通東桐瞳同童風楓豊蓬雄融隆空虹中凍籠

二冬 | 凶恭胸鐘松冬憧農濃封峰逢蜂容竜供従縦重縫溶

三江 | 江双窓撞幢邦降

四支 | 医移萎危奇飢期規旗肌姫基窺岐嬉欺疑儀宜資師詩糸枝詞支芝姿私之屍祠慈辞時児持炊垂誰衰随池知痴馳追碑卑悲皮疲眉離梨籬為遺涯机騎崎差思推吹遅

五微 | 威囲違依祈帰輝希機揮稀磯非妃扉飛霏緋微衣

六魚 | 居虚裾墟魚漁初書諸如徐除疎余廬嘘車誉

七虞 | 烏区虞愚隅枯孤湖弧呼糊壺娯吾拘朱殊珠須図粗蘇徒途都塗夫敷扶膚無愉炉蘆汚駆舗

八斉 | 携渓鶏畦蹊斉西栖棲凄啼提堤低批迷妻題泥

九佳 | 鞋佳階懐皆街骸崖斎排牌埋蛙蝸涯柴

十灰 | 哀埃灰開徊才裁催災哉材財苔台杯盃梅煤枚雷来魁隈回栽推堆 

十一真 | 因巾銀春純巡臣新親唇神薪津辛伸呻真身辰晨仁人塵珍賓頻浜貧民罠隣倫輪鱗振陳

十二文 | 雲云欣芹勤勲薫君裙軍群墳紛焚蚊紋文分聞

十三元 | 猿園温恩垣軒喧言原源元昏痕坤婚魂根尊樽村存豚呑繁幡煩番奔翻盆門孫噴論

十四寒 | 安鞍刊竿肝寒官寛干完歓丸酸残丹灘端壇団般搬盤欄蘭乾冠棺観看嘆単弾難

十五刪 | 関閑環姦顔頑山刪攀湾間還

下平声

一先 | 煙沿延筵淵円懸賢肩堅権虔拳玄弦泉遷川銭千宣仙船箋蝉煎専穿然全前天巓田年燃辺編偏篇翩鞭眠綿連蓮漣憐咽縁乾圏研先鮮扇旋禅伝

二蕭 | 橋驕梟昭消焦招宵蕭蕉樵条朝潮跳凋超彫蜩飄描苗猫謡腰揺遙妖寥焼調挑漂要料

三肴 | 郊交肴敲梢巣嘲泡包咆茅教咬

四豪 | 高尻豪濠遭騒刀陶逃桃濤褒毛牢号操労

五歌 | 阿科渦歌河靴何渦蛾多他波婆摩魔羅荷過蓑蛇磨和

六麻 | 鴉家加華花瓜嘉霞芽牙誇些砂沙遮斜奢邪茶麻爺差涯蝸蛙車蛇

七陽 | 央狂航荒慌皇香黄綱鋼光康杭剛粧商章彰昌傷祥床嘗翔裳嬢常場娘荘倉桑霜装蒼箱腸糖塘堂芳方坊忙亡房防茫揚陽楊羊洋涼良糧郎廊狼王強郷慶行将償障喪創蔵長張当湯傍望妨忘

八庚 | 営栄英盈桜驚京兄傾軽茎鯨庚坑耕晶城情精牲清声成生晴誠征貞呈程兵平萌明盟名鳴盲横頃頸迎行更請盛争

九青 | 刑形蛍馨青星亭停庭汀寧瓶銘冥鈴霊齢零経聴町釘

十蒸 | 鷹恒承昇縄蒸層僧憎澄灯登藤氷崩朋鵬蠅陵綾応興凝称勝乗烝増能

十一尤 | 鴎謳丘球求休鳩仇牛侯喉鉤溝週秋愁修収州羞洲囚舟周酬讐柔捜頭投浮謀矛油尤遊憂幽優悠由硫流留榴楼

十二侵 | 陰音襟金琴禽衾衿襟吟今侵心深森斟尋沈臨林霖禁浸針任

十三覃 | 庵甘堪柑酣含参覃耽男談貪曇南楠嵐藍三担探

十四塩 | 檐淹嫌兼厳尖添粘簾鎌塩炎占潜

十五咸 | 岩巌杉凡鑑監帆 


*上級編! 易しい韻と難しい韻

韻字表を見てみると、多くの字が多く含まれている韻と数えるほどしかない韻があることに気付きます。ということは、字が多い韻は選択肢が多く作りやすく、逆に少ない韻は作りにくいということです。

字が少なく作るのが難しい韻を険韻といいます。険しい韻という意味です。

 上平声「三江・三肴・四豪」
 下平韻「十三覃・十四塩・十五咸」


が、これに当たります。初心者のうちは、これらの韻で作詩するのは避けた方がよいでしょう。

反対に、

 上平声「一東・四支・十灰・十一真・十三元」
 下平声「一先・七陽・八庚・十一尤」


などは、種類が多く、また使い勝手のよい字が揃っています。はじめはこれらの韻で作るのがよいでしょう。

残りの韻は、その中間といったところです。しかし、結局はどうしても使いたい字が出てきます。その場合、その字はその詩の大切な部分であるはずなので、「この字しかない!」と思ったなら、もの怖じせず、是非その韻にチャレンジしてみてください。

それでは最後に険韻の例を見てみましょう。元稹《げんしん》「白楽天が江州司馬に左降せらるるを聞く」です。
 

○○○●●○◎
殘燈無焰影幢幢 残灯 焔無く 影幢幢
●●○○●●◎
此夕聞君謫九江 此の夕 君が九江に謫せらるるを聞く
○●●○○●●
垂死病中驚坐起 垂死の病中 驚いて坐起すれば
●○○●●○◎
暗風吹雨入寒窗 暗風 雨を吹いて 寒窓に入る
 

「聞白樂天左降江州司馬」元稹

江州 … 現在の江西省九江市
司馬 … 昔の中国の官職名、ここでは州の補佐官
左降 … 左遷
幢幢 … 揺れ動くさま
謫せらる … 左遷される
垂死 … 瀕死

燃え残った灯火も消えかけ、その影はゆらゆらと揺れている。
この晩、君が江州の司馬に左遷されたと聞いた。
瀕死の病人の自分が、思わず起き上がったほどだ。
どこからともなく雨を帯びた風が寒々とした窓に吹き込んできた。

この詩は題のとおり、親友の白楽天が江州の司馬に左遷されたのを聞いて、驚き悲しんで詠んだものです。このとき、作者も同じく通州(現在の四川省達州市)に左遷されていて、病床にありました。起句と結句は情景描写ですが、作者の心境をよく暗示しています。

元稹と白楽天は、ともにわかりやすい詩を作った詩人で、その詩に堅苦しさやてらいはなく、心情がよく伝わってきます。そのため、二人の詩はよく後世の人々に愛唱されてきました。

難しい語を使うことは決して悪いことではありませんが、読む人のことを考えて作品を作ることをおろそかにしてはいけません。自ずとそこには作者の思いというものが表れてきます。

「幢」「江」「窗」上平声・三江の押韻です。上記の印字表で「三江」の項を見てみましょう。いくつ字があるでしょうか?

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