初めての人のための漢詩講座 5

平兮 明鏡
2021/5/1

第二章 漢詩のルール

漢詩は漢字パズル!

漢詩は、詩、つまり文学であるわけですが、第一章で言いましたように同時に漢字で作るパズルでもあります。そして、そのパズルの構成要素が、漢字一字一字が持っている平仄《ひょうそく》と韻です。

その平仄と韻を決まったルールや字数に当てはめて、意味の通る文章を作っていきます。パーツを当てはめて、一つの絵に仕立て上げていきますので、まるでジグソーパズルのようなものです。漢字一つが一つのピース、完成形の絵が七言絶句の詩というわけです。

ただし、ジグソーパズルと違うのは、完成された絵があらかじめ用意されているわけではなく、絵自体も自分で描かなければいけないことです。

実際に見てみた方がわかりやすいでしょう。唐の時代の官僚、張継「楓橋夜泊《ふうきょうやはく》」です。

●●○○○●◎
月落烏啼霜滿天 月落ち 烏啼いて 霜天に満つ
○○○●●○◎
江楓漁火對愁眠 江楓 漁火 愁眠に対す
○○○●○○●
姑蘇城外寒山寺 姑蘇城外の寒山寺
●●○○●●◎
夜半鐘聲到客船 夜半の鐘声 客船に到る
 

「楓橋夜泊」張継

月は沈み烏が鳴いて、霜気が天に満ちている。
川岸の楓の木々の間から漁火《いさりび》の光が、旅の愁いに眠れない私の目にちらちらと入ってくる。
姑蘇城外にある寒山寺。
その夜半を告げる鐘の音が、この船まで聞こえてきた。

「楓橋」は中国・蘇州にあった石橋、「姑蘇城」は蘇州の都のことです。

それぞれの漢字の横に「○、●、◎」の記号を付していますが、この「○」や「●」が平仄を、「◎」が韻を表したものです。詳しくは次の項で説明しますが、なんとなく一定の法則があるように見えるのではないでしょうか?

このように、平仄や韻が決まった法則に則って並んでいるということは、漢詩には抑揚やリズムがあるということです。短歌や俳句よりさらに歌曲に近いと言うことができるかもしれません。

しかし、それはもちろん白文で読んだ場合、つまり、もとの中国語、しかも昔の中国語の発音で読んだ場合です。昔の中国語の発音で読むということはなかなか難しいことなので、現在の日本では漢詩を読むとき、日本語の翻訳である読み下し文で読まれることがほとんどなのですが、それはそれで漢詩の持つ厳かな格調と日本語の持つ流麗な美しさが合わさり、独特の風情があるものです。

→(6)「平仄と韻」へ

page up