初めての人のための漢詩講座 15

平兮 明鏡
2021/8/1

第二章 漢詩のルール

*上級編! 平仄式の例外・拗体

実は、平仄式の例外として拗体《ようたい》という形式があります。これは、

1.「転・結句」を「平起式←→仄起式」で入れ替えてもよいというものです。
  「起・承句が平起式」なら、「転・結句が仄起式」、あるいは、
  「起・承句が仄起式」なら、「転・結句が平起式」、となります。

これ以外にも平仄式の性質上、

2.「起・承句」を「平起式←→仄起式」で入れ替えてもよい、あるいは、
3.「起句」と「承句」を入れ替えてもよい、といっても同じことになります。

覚えやすいパターンで覚えましょう。


・平起式(拗体)

起句 *○ *● ●○◎
承句 *● *○ *●◎
転句 *○ *● *○●
結句 *● *○ *●◎

・仄起式(拗体)

起句 *● *○ *●◎
承句 *○ *● ●○◎
転句 *● *○ ○●●
結句 *○ *● ●○◎


平起式(拗体)は、

1.「平仄式の転・結句」が「仄起式」になっている、ともいえますし、
2.「仄起式の起・承句」が「平起式」になっている、ともいえますし、
3.「仄起式」の「起句と承句」が入れ替わっている、ともいえます。

これは、仄起式(拗体)についても同様です。


それでは実際に拗体の詩を見てみましょう。唐の時代の官僚・文人である王維《おうい》「送元二使安西(元二《げんじ》の安西《あんせい》に使いするを送る)」です。

●○○●●○◎
渭城朝雨浥輕塵 渭城の朝雨 軽塵を浥す
●●○○●●◎
客舍靑靑柳色新 客舎 青々 柳色新たなり
●○●●●○●
勸君更盡一杯酒 君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒
○●○○○●◎
西出陽關無故人 西のかた 陽関を出ずれば 故人無からん
 

「送元二使安西」王維

渭城 … 咸陽《かんよう》のこと。かつて秦の都があった
客舎 … 旅館
陽関 … 関所の名。今の甘粛省敦煌県の西南にあった
故人 … 知人、昔なじみ。亡くなった人のことではない

渭城の朝の雨が、あたりの土ぼこりを湿らせ、
旅館の前の青々とした柳の色は、雨に濡れてみずみずしい。
さあ君よ、この酒をもう一杯飲み干してくれたまえ。
西のかた、陽関を出てしまったら酌み交わす友人はもういないのだから。

昔の中国では、別れに際して柳の枝を折って贈る風習がありました。承句で柳が登場するのもその暗示です。起承は、爽やかな朝の雨の光景の中に、別れの悲しみを予感させます。転結は、大きく場面転換して、辺境の地に赴く友人に対する惜別の思いを一杯の酒に託して表現しています。

平仄を見ると平起式(拗体)の並びになっているのがわかります。押韻は「塵」「新」「人」上平声・十一真です。

拗体を用いると平仄の許容範囲が広がり、作詩の自由度がグンと上がります。大変便利なので、活用してみましょう。

 

○○●●●○●
溪聲便是廣長舌 渓声 便ち是れ 広長舌
○●●○○●◎
山色豈非淸淨身 山色 豈に清浄身に非ずや
●○●●●○●
夜來八萬四千偈 夜来 八万四千偈
○●○○●●◎
他日如何擧似人 他日 如何ぞ 人に挙似せん

(4)「*上級編! 禅宗における漢詩(1)」で取り上げた蘇東坡の詩も拗体になっています。どの型になっているか確認してみてください。

→(16)「*上級編! 五言絶句と踏み落とし」へ

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