初めての人のための漢詩講座 8

平兮 明鏡
2021/6/1
第二章 漢詩のルール
※上級編! 通韻~他の韻を使ってもよい場合
江戸後期の学者・賴山陽が、川中島の合戦を読んだ詩です。

○○●●●○◎
「題不識庵撃機山圖」賴山陽
鞭聲肅肅夜過河 鞭声 粛々 夜河を過る
●●○○●●◎
曉見千兵擁大牙 暁に見る 千兵の大牙を擁するを
○●●○○●●
遺恨十年磨一劍 遺恨なり 十年 一剣を磨き
○○○●●○◎
流星光底逸長蛇 流星光底 長蛇を逸す
(上杉軍は)鞭の音も立てずに、夜、河を渡りきり、
(武田軍は)夜明けとともに、大軍がその刃を振りかざすのを目の当たりにする。
まことに遺恨である。十年間、ただこの時のためだけに一剣を磨いてきたというのに、
流星がまたたく間に、その機会を逸してしまうとは。
不識庵は上杉謙信、機山は武田信玄の法名です。白刃の一瞬の閃きが目に飛び込んでくるようなスピード感と、「十年磨一剣」に込められた長年の悲願。その時間的対比から、謙信の無念が心に伝わってきます。
押韻を見てみましょう。
起句の「河」は、下平声・五歌の韻ですが、承句・結句の「牙」「蛇」は下平声・六麻の韻です。これは、押韻誤りというわけではなく、決まった組み合わせにかぎり、起句に別の韻を用いてよいという決まりがあるのです。これを、通韻といいます。
許される通韻の組み合わせは下記のとおりです。韻字表の順番に並んでいるのがわかります。
一東・二冬・三江
四支・五微
六魚・七虞
八斉・九佳・十灰
十一真・十二文・十三元・十四寒・十五刪・一先
二蕭・三肴・四豪
五歌・六麻
七陽(通韻なし)
八庚・九青・十蒸
十一尤(通韻なし)
十二侵・十三覃・十四塩・十五咸
許されていることですが、初めのうちはあまり通韻せず、同じ韻でしっかりと押韻するのが上達への近道です。
→(9)「平仄と韻の調べ方」へ