般若心経散策 第二集(4)

山田 真隆
2024/11/22

「菩提薩婆訶」~悟りよ、幸いあれ!~第4回

 
「般若心経散策」は、『般若心経』(以下、『心経』)の語句を取り上げて、よく詳しく見ていくコンテンツ。第2集「菩提薩婆訶」の最終回です。

私たちが本来持っている悟りという性質を、働きとして活かせないのは、自分を中心として物事を見るところから来ており、その解決は自分に任せない物事の見方をすることと、今まで話を進めてきました。

素晴らしい性質をどうしても活かせないでいる私たちに、「幸いあれ」と応援してくれているのが、「菩提薩婆訶」です。


今回は、歌謡曲の詩の中に散策してみます。特に美空ひばりさんの歌唱で知られる「愛燦燦」という曲。CMにも使われたことでご存じの方も多いと思います。
 

「愛燦燦」 小椋 佳 作詞/作曲

雨潸々(さんさん・雨の降る様子)と この身に落ちて/
わずかばかりの運の悪さを/恨んだりして/
人は悲しい 悲しいものですね/それでも過去たちは/優しく睫毛に憩う
人生って 不思議なものですね

風散々と この身に荒れて/思い通りにならない夢を/失くしたりして
人はか弱い か弱いものですね/それでも未来たちは/人待ち顔をして微笑む
人生って うれしいものですね

愛燦々(光輝く様子)と この身に降って/心密かなうれしい涙を/流したりして
人はかわいい かわいいものですね
ああ 過去たちは/優しく睫毛に憩う/人生って 不思議なものですね

ああ 未来たちは/人待ち顔をして微笑む/人生って うれしいものですね

この詩の1番目と2番目には、不遇な人生を嘆く様子が描かれています。
それを「雨潸々・風散々」という象徴的言葉で綴っています。
まるで、具わっていながら折角の悟りを活かせていない状態を言っているようです。

それが変わるのが、サビの部分。

それでも過去たちは/優しく睫毛に憩う
それでも未来たちは/人待ち顔をして微笑む

という言葉があります。

本人の不遇の思いとは別に、たとえそうであっても、過去も未来も、本来はいつも自分を優しく迎えてくれていたということです。
今回のキーワード「己に任せて」から「己に任せず」に転換することにより、そういう事実に気付いていくことを示しているように見えます。

さらに、この歌詞を受けて、1番は

人生って 不思議なものですね

となり、さらに2番は

人生って うれしいものですね

にだんだん肯定的に変わっていきます。

そして3番目、人生を生きる喜びに満ちた歌詞になっていきます。
喜びを表現している言葉として、「雨潸々・風散々」に代わって出てくるのが、題にもなっている「愛燦燦」という言葉です。

加えて、先述の1番目・2番目で「それでも~」だった歌詞が、3番目は「ああ~」という詠嘆に代わることで一切否定のない表現となっていることも、小椋さんの作詞の妙です。

3番目に至って、運の悪さや思い通りにならないことを、己に任せずの教えで乗り越え、今この身に降ってくる燦燦たる愛を感じ取りながら、「悟りよ、幸いあれ!」と生きる喜びをかみしめる、そんな物語の込められた歌詞なのではないかと思います。


以上、「菩提薩婆訶」を見てきました。

折角具わった菩提をどう活かすかは自分次第ですが、それは自分を基準に物事を判断することではありません。そうすることは逆に菩提を殺してしまう。

活かすのであれば「己に任せず」自分を基準としないことを心掛けるしかない。
一人一人の菩提が少しでも良い活かし方ができるようにとの願いのこもった言葉が「菩提薩婆訶」ということです。

これをお読みになった皆様も私もお互いに、菩提が少しでも幸いあれとなるよう、勤めたいものです。

(第2集終わり)

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